読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

おっさん

気温6℃ 湿度78% 曇天 月齢8.92 宵月


 「そりゃ人命を軽んじてるわけではないし文化的作法を弁えているにしても」「心構えの意味でアーティストはテロリストとさほど変わんないよォ、なァ?」と口々に言い合って目の前の小さなおっさんがフッと消えた。違うだろ。



 「違うだろ」「いやそれ偏見」「無理」で話が終わる。この断定の強さはなんなのだろう。語彙が乏しいのではなくそこに強かに考え続けることへの全面的な放棄を見る。まあ私はここで小さなおっさんの話を終えますけど……

 とにかく他人から「いいね!」をもらうために優しく振る舞おうと努力せざるをえない。そんなあまりにも息苦しい、うっとうしい不文律があるとする。その不文律に対しておまえは、おまえという人格は社会のリソースではない、そのしみったれた自己犠牲精神を捨てろ、社会に飼い慣らされた豚をやめろと何らかの形で表現するテロリストはアーティストと紙一重……みたいな、どっかで聞いた話だな。やっぱりこの話はここでやめよう。


 以下のリストは好きなもの。それは自分の内側を構成する(自分の足元に集めてその所有を主張する趣味まみれの自宅倉庫)ものというよりはなんというか、外側へ、より遠くへ軽やかに抜け出ていくための準備運動みたいなもの。飛び石でできた道。

 時差、小さなサイコロ、豆電池、ガチャポン、枯山水、石膏像、螺旋階段、吊り橋、岩塩、白い砂、はさみ、使わないルーズリーフ、単行本のスピン、買うつもりのないキーホルダーの並ぶ商品棚、使い方のわからない暗号に似たスパイス瓶、オリーヴ、ニベア缶、風に揺れるカーテン、潮が満ちるときに波が立てる音、革靴の手入れ、シーシャの落とす影、川、鳥、ティーインフューザー、狭い演劇小屋に満ちる熱気、金属製アイスクリームスプーン、バターナイフ、タロットカード、あらゆる聖域、漫画の帯、ミニトマトのヘタ、旅先の書店に並ぶ料理本、大学のアトリエ、万年筆を洗う時にインクが水中にほどけていくその色の移ろい、夜の高速道路、人気のない喫茶店、早朝の教室、差し出したカクテルを目の前の相手が写真に撮る瞬間、映画の予告編、地図に印をつける行為、単語帳、使い道のなくなった外国通貨、飛行場、最寄りの遺跡、トマソン、恐竜、白シャツ、氷、火、薬局、病院の中の売店、コーヒーにミルクや砂糖を入れて混ぜないままにすること、地下倉庫、天窓、パラフィン紙、オーガンジーかいわれ大根をとにかくなんにでも乗せること、ふえるワカメを使ったいたずら、片方無くなったピアス、閉園後のプール、枠線、扇形、ゴリラの真似



砂時計を模したカクテルグラスを作りたい。
f:id:mrsk11:20170307194522j:plain



言葉を慎むのが難しい。